アルファベット 393/MAY.5

 紀元前2000年頃、古代エジプトのファラオたちは、ある問題に頭を悩ませていた。当時は近隣諸国との戦争で勝利するたび敵兵を捕まえ、どんどん奴隷にしていた。ところが、この奴隷たちに文章で命令を伝えることができなかった。奴隷たちは、エジプトの文字ヒエログリフ(神聖文字)が読めなかったである。

神聖文字 一部の人は当時読めたらしい

太古の文字体系は、エジプトのヒエログリフを含め、どれもたいへん面倒で、覚えるのが難しかった。文字が何千個もあって、その一字一字がひとつの意味、つまり単語を表していたからだ。これでは覚えるのに何年もかかる。実際、エジプト人でもこの複雑な文字体系を読み書きできたのは、ほんの一握りしかいなかった。

 そこで4000年前のエジプト人は、奴隷とコミュニケーションを取るためヒエログリフの簡略版を作り、これが今に伝わる多種多様なアルファベットの起源になったと、言語学者たちは考えている。やがて西洋世界のあちこちで使われることになるアルファベットが生まれたことで、古代人のコミュニケーションは様変わりをした。

 

 ヒエログリフの簡略版では、ひとつの文字が表すのは音だけだ。この新方程式のおかげで文字の数は数千個から数十個にまで減り、文字を覚えて使うのが、はるかに楽になった。複雑なヒエログリフを使った言葉はやがて忘れ去られ、その文字を学者が翻訳できるようになるのは、1799年にロゼッタ・ストーンが発見されてからだった。

 アフファベットは大成功だった。エジプトで奴隷になっていた者たちは、やがて故郷に帰るとき、この文字体系も一緒に持ち帰った。アルファベットは近東に広まり、ヘブライ文字やアラビア文字など、この地域のさまざまな文字体系の基礎になった。一方、古代文明のひとつを築いた海洋交易民俗フェニキア人は、地中海沿岸で出会った人々にアルファベットを伝えた。ギリシア文字とラテン文字は、この古代フェニキア文字を基にしたものだ。現在では、西洋の言語は英語も含め、ラテン文字を使っている。

フェニキア人・古代地中海貿易を担っていた

重箱の隅

1 現代英語で使われている文字の中には、古代エジプト文字に直接の起源を持つものがある。例えば、最初の2文字 α, β の読み方である「アルファ」(ἄλφα)、「ベータ」(βήτα)に由来する。Bという字は『家』を意味するエジプト文字から生まれた。

2 『オックスフォード英語辞典』の最新版には、現在使われている単語として、約18万語が収録されており、その多さは、あらゆる言語の中でもトップクラスだ。

世界一の収録単語数を誇るオックスフォード英語辞典

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